【ゲスト投稿 no.57】   「メール転送顛末記」

 

 2020-05-01  (7期) 近藤 秀子さん

 

2月の末。明日は日本に帰国という日のこと。トランクに荷物を詰め込んでいる最中に日本のボランティア仲間のHさんからメールが入った。昨年暮れにホノルルへ出発する前、「ボランティアのことで連絡の必要があったらお願い」とメールアドレスを渡してきていた。器機に弱い私は、滅多にメールは利用しない。

 

何事かと開いてみる。なんと、新型コロナ肺炎に関するメールであった。武漢で研究をしているアメリカ人ドクターが発信したもので、Hさんは彼女のお兄さんから受け取ったという。新型コロナ肺炎の症状や特徴、予防に関して注意すべきことが、こまごまと沢山書いてある。手洗いやうがいをすることなどは周知だろうが、殺菌に至る温度と方法、ウイルスの大きさ、あまり聞かないことも多く、よく読んでハワイに住んでいる友人たちにも知らせるべきだろうと思った。感染の拡大を防がなければならない。

 

焦りはするものの、私にはこういったメールの転送が出来ない。孫を小学校に送って行った娘の帰宅を待って来てもらった。コーラス仲間でもあるA子さんに転送してくれるよう頼んだ。娘は転送をすませると物珍しそうに読んでいたが、ランチの約束があるとそそくさと出掛けてしまった。まもなくA子さんから《教えてくださってありがとう。早速友人たちに送ります》とのメールが入った。それからも何度か《今何人目よ》とか《誰さんはメインランドの娘さんの所だそうよ》などと誰彼の消息入りのメールが届いた。

 

ランチから戻った娘の言葉を聞いて仰天した。昨日、日本であの様なメールを巡って大騒ぎが持ち上がったそうだ。メールとそれに対する反論。帰宅した娘は大急ぎで反論なるものを探し、それを見つけて持って来たのだった。「あのメールを取り消してもらわないと」と言う。A子さんに事情を伝えるメールを送ってもらった。

 

丁度A子さんから《9人の友人にメールを送りました。終了します。》の連絡が入ったばかりだった。なんということだろう。心ならずもフェイクメールの転送人になってしまったなんて。ただオロオロするばかりだった。A子さんは事情説明のメールを送ってくれているだろう。ごめんなさい。注意力の足りない私のために、と思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。夜、彼女から電話があった。

 

 「秀子さん、明日出発が早いのにごめんなさい。でも一応お知らせします。全員に知らせました。優しい

  気持ちから発したことだもの、みんな感謝していますよ。安心してお帰りください。また会えるのを楽

  しみにしています」

 

ホノルルからの便はいつもと違って空いていた。成田に着いてホッとした。空港バスの中で荷物の中からiPhoneを取り出し、機内モードを戻した。Hさんからのメールが入っていた。お詫びのメールだった。《秀子さん、ごめんなさい。知っているドクターにあのメールをみてもらいました。正しいこともありますけれど、全部は信用出来ないものだと分かりました。兄からそう言ってきました》。

 

Hさんがお兄さんからのメールを信用するのは当然だろう。何故かほっとした。急に疲れが出てくるような感じがした。『成田空港―吉祥寺』 大型リムジンバスに客は7名しか乗っていなかった。