【Kissの会 ゲスト投稿no.74】  「安曇野日和『スピンオフ』②」

 <事務局記:今回投稿は2021-07-01付投稿「安曇野日記『スピンオフ』①」の続編です。併せてご覧ください>

                                   

2021-10-01 森部 美由紀さん 

2020年4月緊急事態宣言の発出に伴い、職場が休館の間、私は以前から興味のあったハーブづくりを手伝うことにした。ここ池田町はハーブの町として地域おこしをしており、ラベンダーの苗を全戸配布する計画がある。

これを担っている方と仕事を通じて知り合い、「一緒にやらない?」と声をかけて頂いたのがご縁でガーデンで過ごす日が多くなった

 

どんなことをするのかと言うと、発芽した小さなハーブの苗を黒いビニール製のポットに移植するという至って単純な作業である。聞いただけではさほど面白いとは思えないが、やってみると意外にもはまってしまった。

土に触れることで気持ちが落ち着くだけでなく。作業している手元から鼻先までの小さな空間にほのかな香りが漂いとても心地がよい。きっと匂い玉に触れているのだ。 


 いつまでこの香りに包まれていたい…、時を忘れて勤しめることに出会う喜びは何事にも代えがたく、アロマテラピーが効いたのかもしれないと思っている。メンバーの皆さんとの会話も楽しく、移住者の私にとっては情報基地のような存在となった。 

ある日はハーブが根を伸ばしやすいという川砂を河川敷に掘りに行き、またある日は地元の方が庭先(といってもどこまでが敷地なのかわからないくらい広い)から分けてくださるハーブを譲り受けに行く。作業着に長靴という出で立ちで軽バンに乗って駆けつけるのも、初めての体験、心躍る時間だった。一日の終えると、苗のおすそ分けをいただくので、我が家のベランダはいつの間にかちょっとしたキッチンガーデンになり、ハーブ3兄弟と名付けた(イタリアンパセリ、チャイブ、バジル)。スカボロフェア兄弟の(パセリ、セージ、ローズマリー、タイム)。そしてミント類が所狭しと育ち、生活を彩ってくれた。

  

ハーブは道の駅をはじめ、白馬で名の通ったレストランへも出荷されるようになり、これらをあしらった料理の写真を見るのは楽しいし、時にはご招待にあずかるとなればモチベーションも上がるばかり!メンバーの若さの秘訣、ここにあり。

5月の末、満開のカモミールを見逃すまいと、このメンバーで(前回ご紹介した)八寿恵荘弁当をもって大峰高原へ出かけた。そこは人間界で起きていることとは無関係に、一面のカモミールが風にそよいでいた。さわやかな空気を体中に満たすと、首都圏でなくても私たちは随分気を張って生活していることに気づかされた。ひと時でも緊張から解き放たれて食べたお弁当がどれほどだったかは、皆さんのご想像に任せたい。

 

6月、安心を確保し部屋数を絞って宿は再開され私も本業に戻った。

GoToキャンペーンの効果か、繁忙期を過ぎても予約が途切れることはなかった。残念なのはこの間に退職者が続いたことだった。人間関係の良い職場だっただけにショックは大きい、コロナは思いがけないところへ影を落とした。

 

今回この原稿をスピンオフ編としたのは、コロナはそのうち収束し以前の営業に戻るものと思っていたからだ。でも書いているうちにそうではないと気が付いた。試行錯誤しながら進んできたこの道は、あの時から角度が変わっている。そしてこの先に続いていくのもこっちの道、だとすると…この1年の出来事はスピンオフとは言えず、こちらが本編と言っていい。私たちは今、歴史の中を歩いている。(2021年4月記) 

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 さて、2021年9月、ラベンダーの配布もひと段落。ガーデンでは秋まきの準備に余念がない。出勤日にはコンバイン!とすれ違いながら通勤。時節柄不安の多い生活が続きそうだが、朝は田んぼを黄金色に染めていた稲が夕方にははざに掛っているのを見るにつけ、取敢えず今年の豊作を喜んでいる。